はじめに:長引く咳でお悩みの方へ
夜中に咳が止まらない、会議中に咳き込んでしまう、そんな経験はありませんか?咳は身体の防御反応として重要な役割を果たしていますが、長期間続くと日常生活に大きな支障をきたします。
本記事では、呼吸器内科医の視点から、咳止めに効果的なツボ療法と、医学的に正しい咳への対処法について詳しく解説します。
咳が続く主な原因と注意すべき疾患
咳の原因は多岐にわたります
咳が長引く原因は実に様々です。最も一般的なのは風邪やインフルエンザですが、これらは通常1~2週間で改善します。しかし、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような慢性的な呼吸器疾患、アレルギー性鼻炎や花粉症などのアレルギー疾患も咳の原因となります。
意外に思われるかもしれませんが、胃食道逆流症(GERD)も咳の原因となることがあります。胃酸が食道に逆流することで、のどが刺激され咳が出るのです。また、心不全による肺うっ血や、高血圧治療薬のACE阻害薬の副作用として咳が現れることもあります。
咳止めに効果的な5つのツボ
東洋医学では、以下のツボが咳の緩和に効果的とされています。
1.尺沢(しゃくたく)
場所:肘を軽く曲げたときにできるシワの上、親指側の凹み
押し方:親指の腹で3~5秒ずつ、5~10回程度やさしく押す
効果:肺の機能を整え、咳や痰を鎮める
2.天突(てんとつ)
場所:鎖骨の間、のどぼとけの下の凹み
押し方:人差し指で下向きに軽く3秒程度押す(強く押さない)
効果:のどの違和感や咳を和らげる
3.合谷(ごうこく)
場所:手の甲、親指と人差し指の間の凹み
押し方:反対の手の親指で円を描くように揉む
効果:全身の気の流れを整え、咳を鎮める
4.肺兪(はいゆ)
場所:背中、肩甲骨の内側、第3胸椎の両側
押し方:家族に押してもらうか、テニスボールを使って刺激
効果:肺の働きを活性化し、呼吸を楽にする
5.中府(ちゅうふ)
場所:鎖骨の外側下、胸筋の上
押し方:指の腹で円を描くようにマッサージ
効果:肺経の流れを整え、咳や胸の苦しさを緩和
ツボ押しの効果を高めるコツ
ツボ押しの効果を最大限に高めるには、いくつかのポイントがあります。まず最も大切なのは、リラックスした状態で行うことです。深呼吸をしながら行うと、より効果的にツボを刺激できます。
力加減は「痛気持ちいい」程度が目安です。強く押しすぎると逆効果になることもあるので、優しく丁寧に行いましょう。また、継続することが大切で、1日2~3回、定期的に行うことで効果を実感しやすくなります。
お風呂上がりなど、体が温まっているときに行うと、血行が良くなっているため、より効果的です。冷えた状態でのツボ押しは効果が半減してしまうので、できるだけ体を温めてから行いましょう。
環境を整える
咳を和らげるためには、まず生活環境を整えることが重要です。室内の湿度は50~60%に保つことで、のどの乾燥を防ぎ、咳を軽減できます。加湿器を使用したり、濡れタオルを部屋に干したりするのも効果的です。
就寝時は枕を高くすることで気道を確保し、呼吸を楽にすることができます。また、空気清浄機を使用してアレルゲンやほこりを除去することも、咳の原因を取り除く上で有効です。もちろん、禁煙は必須で、受動喫煙も避けるよう心がけましょう。
効果的な呼吸法
腹式呼吸は咳を鎮め、呼吸を安定させる効果があります。まず背筋を伸ばして座り、鼻からゆっくりと息を吸いながらお腹を膨らませます。次に、口をすぼめて、ゆっくりと息を吐きます。この呼吸法を1日10分程度実践することで、呼吸器の機能が改善し、咳の軽減につながります。
咳に良い食材を取り入れる
食事療法も咳の改善に役立ちます。大根には消炎作用があり、のどの炎症を鎮める効果があります。大根おろしにはちみつを加えたものは、昔から咳止めの民間療法として親しまれています。
梨は潤肺作用があり、乾燥による咳を和らげます。生で食べるのはもちろん、煮て食べるのも効果的です。はちみつは抗菌作用と保湿効果があり、のどを潤します(ただし、1歳未満の乳児には与えないでください)。
生姜は体を温め、咳を鎮める作用があります。生姜湯や料理に取り入れることで、体の内側から温まり、咳の緩和が期待できます。レンコンは粘膜を保護する作用があり、咳を緩和する効果があります。すりおろしてスープにしたり、煮物にしたりして摂取しましょう。
こんな症状があれば早めに呼吸器内科へ
以下の症状がある場合は、ツボ療法やセルフケアだけに頼らず、速やかに医療機関を受診してください。
緊急受診が必要な症状
呼吸困難や息切れがある場合、胸痛を伴う咳がある場合、血痰が出る場合は、緊急性が高い状態です。また、38℃以上の高熱が3日以上続く場合や、咳とともに体重減少がみられる場合も、重篤な疾患の可能性があるため、すぐに受診が必要です。
早期受診をお勧めする症状
咳が2週間以上続いている場合は、単なる風邪ではない可能性があります。特に夜間の咳で睡眠が妨げられる場合や、市販薬を使用しても改善しない場合は、専門的な診断と治療が必要です。
喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)を伴う咳は、気管支喘息の可能性があります。また、咳とともに声がかすれる場合は、声帯や喉頭の問題も考えられるため、早めの受診をお勧めします。
呼吸器内科での検査と治療
主な検査
呼吸器内科では、咳の原因を特定するために様々な検査を行います。最も基本的な検査は胸部X線検査で、肺炎や結核などの診断に用いられます。血液検査では、炎症反応の程度やマイコプラズマ抗体の有無を確認し、感染症の診断に役立てます。
呼吸機能検査は、喘息やCOPDなどの慢性呼吸器疾患の診断に欠かせません。肺活量や気道の狭窄の程度を測定することで、適切な治療方針を決定します。より詳細な検査が必要な場合は、CT検査を行い、肺の状態を詳しく調べます。
治療方法
治療は原因に応じて異なります。マイコプラズマ感染症にはマクロライド系抗菌薬が有効で、通常1~2週間の内服で改善します。気管支喘息の場合は、吸入ステロイド薬を中心とした治療を行い、アレルギーが原因の場合は抗ヒスタミン薬を使用します。
対症療法として、咳の種類に応じて鎮咳薬を使い分けます。中枢性鎮咳薬は脳の咳中枢に作用し、末梢性鎮咳薬は気道の咳受容体に作用します。痰が多い場合は去痰薬を併用し、気道の狭窄がある場合は気管支拡張薬を使用することもあります。
まとめ:ツボ療法と医療の適切な使い分けを
咳止めのツボは、軽い症状の緩和や医療機関での治療の補助として有効です。しかし、長引く咳や重篤な症状がある場合は、必ず呼吸器内科を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
私たち呼吸器内科医は、患者様一人ひとりの症状に合わせた最適な治療を提供しています。咳でお悩みの方は、ツボ療法などのセルフケアと併せて、お気軽にご相談ください。

にしおか内科クリニック
院長 西岡 清訓
(にしおか きよのり)
- (元)日本呼吸器外科学会専門医
- 日本消化器内視鏡学会指導医・専門医
- 日本外科学会専門医
- 麻酔科標榜医・がん治療認定医