日本の多くの家庭やオフィス、商業施設で普及しているウォシュレット。清潔で快適な排便後のケアができることから、今や日本人の生活に欠かせない存在となっています。しかし、「ウォシュレットは痔に良いの?悪いの?」という疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。実は、使い方次第で痔の予防にもなれば、悪化の原因にもなり得るのです。今回は、肛門科医の視点から、ウォシュレットと痔の関係について詳しく解説します。
ウォシュレットの知られざる機能と痔への意外な効果
ウォシュレット(温水洗浄便座)の基本機能は、温水で肛門周囲を洗浄することです。水温や水圧を調節でき、乾燥機能が付いているものもあります。これらの機能により、トイレットペーパーだけでは落としきれない汚れも清潔に洗い流すことができます。
ウォシュレットの最大の利点は、肛門周囲を清潔に保てることです。排便後の残便感が減り、かゆみや不快感から解放されます。また、トイレットペーパーで何度も拭く必要がなくなるため、肛門への物理的な刺激を減らすことができます。特に痔でお悩みの方にとっては、この「擦らずに済む」という点が大きなメリットとなります。
なぜ日本人の3人に1人が痔になるのか?驚きの原因とは
痔の主な原因は、排便時の過度ないきみと肛門周囲の血流障害です。便秘により硬い便を無理に出そうとすると、肛門に大きな圧力がかかり、血管が拡張して痔核(いぼ痔)ができたり、肛門の皮膚が切れて裂肛(切れ痔)になったりします。
現代人の生活習慣も痔の大きな要因となっています。長時間のデスクワークや運転により、肛門周囲の血流が悪くなります。また、食物繊維不足や水分摂取不足により便秘になりやすく、これが痔の発症リスクを高めています。ストレスや不規則な生活リズム、過度の飲酒も痔を悪化させる要因となります。
ウォシュレットの落とし穴!痔を悪化させる間違った使い方とは
ウォシュレットが痔に与える影響には、良い面と悪い面の両方があります。
良い影響としては、まず清潔を保てることが挙げられます。痔があると、排便後に便が残りやすく、これが炎症や感染の原因となることがあります。ウォシュレットで丁寧に洗浄することで、これらのリスクを軽減できます。また、トイレットペーパーによる摩擦を避けられるため、痔の痛みや出血を防ぐ効果も期待できます。
一方で、使い方を誤ると痔を悪化させる可能性もあります。水圧が強すぎると、デリケートな肛門周囲の粘膜を傷つけてしまうことがあります。また、長時間洗浄し続けることで、必要な皮脂まで洗い流してしまい、肛門周囲の皮膚が乾燥してかゆみやただれを引き起こすこともあります。温度設定が高すぎる場合も、血管を拡張させて痔を悪化させる可能性があります。
肛門科医が教える!痔が楽になるウォシュレット活用術
痔の症状を緩和するためには、ウォシュレットを正しく使うことが重要です。
水圧は必ず「弱」から始め、痛みがない範囲で調節します。多くの方が「しっかり洗いたい」という思いから強い水圧を使いがちですが、これは逆効果です。優しい水流でも十分に汚れは落ちますので、肛門に負担をかけない程度の水圧を心がけましょう。
洗浄位置も重要です。水流が直接患部に当たると刺激が強すぎることがあるため、少し位置をずらして周囲から洗うようにします。また、洗浄中は力を抜いてリラックスすることで、肛門括約筋の緊張を和らげることができます。
温度設定は、体温と同じくらいのぬるま湯が理想的です。熱すぎる温水は血管を拡張させ、痔の症状を悪化させる可能性があるため避けましょう。
3秒でOK!医師が推奨する理想的な洗浄時間とは
ウォシュレットの使用時間は、1回あたり3〜10秒程度が適切です。「もっときれいにしたい」という気持ちから長時間洗浄する方もいますが、これは肛門周囲の皮膚バリアを破壊し、かえって炎症を引き起こす原因となります。
使用頻度については、排便後に使用する程度に留めることが大切です。1日に何度も使用したり、排便とは関係なく頻繁に使用したりすることは避けましょう。過度の洗浄は、肛門周囲の常在菌のバランスを崩し、感染症のリスクを高める可能性があります。
洗浄後は、柔らかいトイレットペーパーで優しく水分を拭き取ります。ゴシゴシと擦るのではなく、押さえるようにして水分を吸い取ることがポイントです。乾燥機能がある場合は、低温で短時間使用することで、肛門への刺激を最小限に抑えられます。
危険信号!「温水洗浄便座症候群」の恐ろしい実態
痔の急性期で痛みが強い時は、ウォシュレットの使用を控えることも検討しましょう。特に血栓性外痔核(血豆状の痔)や、裂肛(切れ痔)の急性期は、わずかな刺激でも激痛を伴うことがあります。このような場合は、ぬるま湯で優しく洗い流す程度に留め、早めに医療機関を受診することが大切です。
出血がある場合も注意が必要です。少量の出血であればウォシュレットで清潔を保つことは有効ですが、出血量が多い場合や、鮮血が続く場合は、別の疾患の可能性もあるため、必ず医師の診察を受けてください。
また、ウォシュレット使用後にかゆみやただれが生じた場合は、使用方法を見直すか、一時的に使用を中止することをおすすめします。症状が改善しない場合は、アレルギーや感染症の可能性もあるため、医療機関での診察が必要です。
今日から始める!痔を予防する生活習慣改善法
痔の予防には、ウォシュレットの適切な使用だけでなく、生活習慣全体の見直しが重要です。
食生活では、食物繊維を豊富に含む野菜や果物、海藻類を積極的に摂取しましょう。1日の目標は20〜25gです。水分摂取も重要で、1日1.5〜2リットルを目安に、こまめに水分補給を行います。これにより便が柔らかくなり、排便時の負担が軽減されます。
運動習慣も痔の予防に効果的です。特にウォーキングや水泳などの有酸素運動は、全身の血流を改善し、便秘の解消にもつながります。デスクワークの方は、1時間に1回は立ち上がって軽く体を動かすことを心がけましょう。
排便習慣の改善も大切です。便意を感じたら我慢せず、すぐにトイレに行くようにしましょう。また、トイレでスマートフォンや新聞を読む習慣は、長時間の座位につながるため避けることをおすすめします。排便時間は5分以内を目安にし、出ないときは無理にいきまず、時間を改めるようにしましょう。
こんな症状は要注意!すぐに病院へ行くべきサイン
以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
痔の痛みが日常生活に支障をきたすほど強い場合や、市販薬を使用しても2週間以上改善しない場合は、専門的な治療が必要です。また、排便時の出血が続く場合や、出血量が増加している場合も、大腸がんなど他の疾患との鑑別が必要なため、必ず受診してください。
肛門から何かが飛び出して戻らない、肛門周囲に硬いしこりができた、発熱や強い痛みを伴う腫れがあるなどの症状は、緊急性が高い場合があります。このような症状が現れたら、すぐに医療機関を受診しましょう。
肛門科×内科で痔を根本から治す
痔の治療には、肛門科での専門的な診断・治療と、内科での全身的な健康管理の両方が重要です。
肛門科では、痔の種類や程度を正確に診断し、薬物療法や注射療法、必要に応じて手術療法などの専門的な治療を行います。一方、内科では、便秘の原因となる生活習慣病の管理や、食事指導、運動療法などを通じて、痔の根本的な原因にアプローチします。
症状の改善だけでなく、再発予防まで含めた総合的な治療が可能となります。
よくある質問
Q: ウォシュレットは本当に痔に良いのですか?
A: 正しく使えば痔の症状緩和や予防に役立ちます。適切な水圧(弱め)と時間(3〜10秒)を守り、清潔を保つために使用する分には効果的です。ただし、過度の使用や誤った使い方は症状を悪化させる可能性があります。
Q: どのタイプの痔に有効ですか?
A: 基本的にすべてのタイプの痔(内痔核、外痔核、裂肛)において、適切な使用により清潔を保つメリットがあります。ただし、急性期で痛みが強い時期は刺激を避け、症状が落ち着いてから使用を再開することをおすすめします。
Q: 温水洗浄便座症候群とは何ですか?
A: ウォシュレットの過度な使用により、肛門周囲の皮脂膜が失われ、かゆみ、ただれ、炎症などを引き起こす状態です。長時間(10秒以上)や強い水圧での洗浄を繰り返すことで発生します。
Q: ウォシュレットで便を出そうとするのは良くないですか?
A: はい、いわゆる「ウォシュレット浣腸」は避けるべきです。温水の刺激に頼ると自然な便意が起きにくくなり、便秘が悪化する可能性があります。また、痔を悪化させる原因にもなります。
Q: 痔があるときの適切な水圧と温度は?
A: 水圧は必ず「弱」から始め、痛みがない範囲で使用します。温度は体温と同じくらいのぬるま湯(36〜38度)が理想的です。熱すぎる温水は血管を拡張させ、痔を悪化させる可能性があります。
Q: 1日に何回まで使用して良いですか?
A: 基本的に排便後の使用に留めましょう。1日に何度も使用したり、排便と関係なく頻繁に使用することは避けてください。過度の使用は皮膚バリアを破壊し、かえってトラブルの原因となります。
最後に
ウォシュレットは、正しい使い方を守れば痔の予防や症状緩和に役立つ優れた機器です。水圧は弱めに、洗浄時間は短めに、温度はぬるめにという3つのポイントを守り、肛門に優しい使い方を心がけましょう。
しかし、ウォシュレットだけで痔が治るわけではありません。食物繊維と水分を十分に摂り、適度な運動を行い、正しい排便習慣を身につけることが、痔の予防と改善の基本です。症状が続く場合は、恥ずかしがらずに早めに医療機関を受診し、専門的な診断と治療を受けることが大切です。
健康的な生活習慣とウォシュレットの適切な使用により、多くの方が痔の悩みから解放されることを願っています。

にしおか内科クリニック
院長 西岡 清訓
(にしおか きよのり)
- (元)日本呼吸器外科学会専門医
- 日本消化器内視鏡学会指導医・専門医
- 日本外科学会専門医
- 麻酔科標榜医・がん治療認定医









